A-Forum e-mail magazine no.53(23-08-2018)

今、学校の設計が面白い


 

私が社会に出て構造設計を始めたころ、小・中学校の設計は相当画一的なものであった。そのほとんどは、平面形状が東西方向に細長く延びる長方形で、北側に廊下、南側に教室が並び、その教室群の中央あたりに教室の二つか三つ分の広さの教員室と昇降口が配置されていた。それに便所と階段が適当に設けられていれば出来上がり、といったところが学校建築の通り相場であった。立面形状もまた画一的で、南側にも北側にも腰壁、垂れ壁付き連窓があり、この部分の柱が地震のたびにせん断破壊を引き起こし、大被害の原因にもなっていた。

当時の設計者は、このように定型化された校舎の間取図を発注者から渡され、異を唱えることを許されないままにそれを図面化していた。構造設計者や設備設計者も同様に、その図に従って計算をし、図面を作成するルーチンワークを繰り返して、横並び行政の申し子のような学校が全国各地に造られていた。

学校建築が現在の様に多様化してきたのは、いつ頃からのことだったのだろうか。その方面の知識に疎い筆者がその詳細を知る由もない。推測ではあるが、どうも公共施設の設計者の選定がそれまでの入札方式から、設計コンペないしはプロポーザル方式に代わり始めた1980年代頃からではないだろうか。もちろん建築の多様化は学校建築に限ったことではない。しかしこの分野のそれは、より一層のスピードと激しさをもって押し進められているように思われる。

私の事務所で構造設計を担当したいくつかの例だけを見ても、建築家が力を尽くして設計・工事監理に関わり、竣工した学校が子供たちの重要な生活の場となっている。 A中学校は、各クラスのホームルームがなく、生徒が教科群ごとに決められた教室間を移動する方式をとっている。ホームルームの代わりには、間仕切り壁のない各クラス共通の広いスペースが生徒のロッカールーム兼、交流の場として用意されている。

B中学校では、広い空間をゾーニングするような壁以外に、教室を間仕切る壁が設けられていない。したがって音楽教室などの遮音性が必要な特別教室を除いて、生徒はその気になれば他のクラス、他の学年の授業風景を見聞きすることができる。

今年(2018年)4月に竣工したC小学校は、全教室が南向きになっていないと不公平という発注者側の反対を押し切って、幅4mの広い中廊下の両側に面した教室群がⅬ型に並んでいる。その廊下には「右側通行」を指示する表示はあるが、「走るな」という表示はなく、休み時間に児童が元気に走り抜ける姿に驚かされた。さらにその広い廊下の、教室を挟んだ反対側には廊下と同じ幅で、教室毎の仕切りがないテラスが設けられていて、そこをどのように利用するかは、各クラスの自由意思に任されている。

これ等と対照的な校舎が私立のD校である。そのキャンパスはこれまで中高一貫校であったが、来年(2019年)度から小学生も加えた小中高一貫校を目指し、そのための増築工事が先日竣工した。そこでは、教育方針を少人数教育に変えたことから、校舎棟は定員20人以下の小教室毎にしっかりと壁で仕切られている。

文科省によると、日本では今、過疎地だけでなく、少子化が急速に進む都市圏でも閉校が相次ぎ、その数が小中高合わせて年間500校にも及んでいるとのことである。親しんだ学び舎が姿を消す寂しさ、悲しさは想像するのに難くない。だからといって、俯いているばかりでいる訳にはいかない。

この状況に立ち向かう様にして、関係者が力を合わせ丁寧に建設される多様な学校建築が、次々に登場している。学校建築が若者の個性を豊かにし、それが日本の未来を明るくする要因の一つとなるとしたら、その建設に携わるものとしてこんな嬉しいことはない。そして、生徒が自分たちの生活の場である建築に興味を持ち、やがて次世代の建築界を担う若者に成長することを楽しみにしている。 (K.K)


第12回 AB(アーキテクト/ビルダー「建築の設計と生産」)研究会  

発注者支援の必要性と実践-若手建築家の実績づくりも支援したい-

 
国内の公共建築はほぼ9割が入札、残りも実績偏重のプロポーザルで、若手・アトリエはほとんど参加できない。ごく稀に敷居の低いコンペがあれば何百もの案が殺到する状況で、当選者以外は出すだけで疲弊する。こうして「公共建築の設計者は、公共建築の実績をもって募集され、評価される」という現況においては「公共建築の実績を1つでも作らないと、次の公共に挑戦すらできない」というサイクルができており、この状況が今後も続けば、将来的には公共建築の経験をもつ層が薄くなり、発注者側にとっても選択肢が激減していくため多様性・公共性が少なくなり、建築家側だけではなく、社会にとって不利益だと思われる。-――相坂研介氏はJIAの常任幹事として、このような熱い想いと幾つもの目的を胸に、発注者支援の仕組みづくりの必要性を訴え、品川区大井町駅の公衆便所建替え事業を、パブリックスペース全体まで拡げた実施コンペとして実現させた。今回はそのコンペの公開二次審査(9/15)を終えたころ、仕掛け人である相坂研介氏に加え、可能であれば最優先交渉者に選定さたた応募者にも参加していだだき、具体的な事例を交えながら議論したい。また、AB研究会を中心に活動準備をしているJCDL(ジャパンコミュニティデザインリーグ)構想とも併せて、議論を深めたい。

コーディネーター:布野修司+安藤正雄+斎藤公男
パネラー:相坂研介+最優先交渉者 or品川区担当者
(a) 主旨説明と発注者支援の必要性と実践(仮):相坂研介(相坂研介設計アトリエ)
(b) 大井町駅前コンペについて(仮):最優先交渉者 or 品川区担当者
コメンテーター:森民夫(前長岡市長)

日時:2018年9月29日(土)15:00〜18:30
場所:A-Forum
参加費:2000円(懇親会、資料代)
参加申し込み:こちらのフォーム よりお申し込みください。
*「お問い合わせ内容」に必ず「第12回AB研究会参加希望」とご明記ください。


日本学術会議公開シンポジウム / 第6回防災学術連携シンポジウム
「あなたが知りたい防災科学の最前線 首都直下地震に備える」

近年首都直下地震の発生が危惧されています。日本学術会議や防災学術連携体(56学会)には、様々な視点から、首都直下地震の災害の軽減に向けて研究を続けている研究者がいます。防災においては「自助・共助」「地域での連携」が大切で、消防団、町内会や自治会、学校や職場で、防災訓練や教育が続けられています。 シンポジウムでは、地域の防災力の強化に科学を役立てるため、市民の皆様が知りたい防災科学の最前線をわかりやすくお伝えします。

日時:2018 年 10 月 13 日(土)16:30 ~ 19:00/同フロアにてポスター掲示(13日・14日)
会 場 : 東京ビッグサイト会議棟7F国際会議場
  主 催 : 日本学術会議 防災減災学術連携委員会、防災学術連携体
参加費 : 無料(ご家族、お友達などと多くの方々のご参加により、有意義な会合にしたいと思います)
申込み : 事前申込はこちら。(当日の直接参加も可能)
*A-Forumでは申し込み受け付けを行っておりません。
ご案内 : 特設ページ

発信:防災学術連携体 運営幹事 和田 章、依田照彦