A-Forum e-mail magazine no.118 (13-02-2024)

地域コミュニティを考える

金田勝徳

元旦の夕暮れ時、新年を祝い、お互いの幸せを願う言葉が並ぶ年賀状をめくっていた。そこに短い縦揺れに続いて比較的周期が長く継続時間も長い横揺れを感じ、その揺れ方にただならぬ地震なのでは、との不安がよぎった。つけっ放しにしていたテレビからは正月のせいか、どことなくのんびりとした印象の地震速報の第一報があり、その後、時を追うに従って報じられる被災の程度が大きくなっていった。その間に「津波警報」が「大津波警報」に変わり、「避難してください」の字幕も「すぐにげて!」と変わった。

同じ日、日没後の暗闇の中でテレビインタビューに答えて「家の中に居ると怖いから車の中で寝る」と話す被災者が映し出されていた。車中泊となればガソリンを頼りに寒さを凌ぎ、ガソリンがなくなれば、車内・外の差は寒風にさらされなくて済むぐらいしかない。雪深くて寒い北陸地方でのこうした状況下の心細さは如何ばかりか。もしその上に家族の安否も不明などが重なっているとしたらを想えば、言葉を失う。同じような状況が大震災のたびに繰り返され、未だに家に居るより車やビニールハウスの中の方が安心と思われ続けている現実には、構造設計を生業としている者として恥じ入るばかりである。

それはともかくとして、少しでも早く仮設住宅が建設されれば、そこでの様々な不便や不都合があるにしても、他者とのコミュニケーションが保たれて、こうした心細さが少しでも癒されるのではないか。地震発生後間もなくの1月12日には、輪島市、珠洲市内の計4か所で仮設住宅115戸の着工が発表された。その内の3か所は、津波のハザードマップで浸水区域内に指定されているという。そのことを石川県の馳浩知事は「(他に)土地がないというだけでなく、地域コミュニティを維持したい。建設地は避難できる場所に隣接しているので、(直ぐに)避難態勢と整えることができる」と説明している。阪神・淡路大震災、東日本大震災の時、苦境の中にも節度を持って支えあう被災者たちに海外メディアが驚き、その姿を世界に伝えたという。きっと同じような光景が能登でも繰り広げられているに違いない。

ひるがえって物心が付く以前から住み続けている私の町を顧みれば、全く地域コミュニティが崩壊しているように見える。子供の頃は、この町にも新年会、花見大会、盆踊り、秋祭りなどがあった。そしてお年寄りが亡くなれば、近隣の人々がこぞって別れを惜しむお葬式もあった。いつ頃からか町内会が有名無実化し、こうしたことが一切なくなったこの町が、同じように被災した時のことを想像することは難しい。日頃便利にしているスーパー、コンビニ、宅配便などが十分機能しなくなった時、新たな地域コミュニティが生まれるかもしれない。しかし災害復旧がひと段落すれば、ご近所に面倒な気遣いの必要もないマイペースに慣れた日常に戻ってしまうようにも思われる。もっと早く仕事から引退して、町内会の復活に尽力すべきだったかと、できもしないことを想う我が身の身勝手さにも恥じ入るばかりである。


Archi-Neering Design AWARD 2023(第4回AND賞)

選考委員

福島加津也(委員長)(東京都市大学教授/建築家)、陶器浩一(滋賀県立大学教授/構造家)、磯 達雄(建築ジャーナリスト)、堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授/建築家)

表彰式および受賞記念講演会

2024/2/22(木) 14:00~
https://youtu.be/PgQEpvHfYUE

最終選考結果発表

2/3(土)14:30~最終選考会を行いました。
最優秀賞

12 学ぶ、学び舎
32 環境を制御するコンクリートダブルスキン-早稲田大学本庄高等学院体育館-
優秀賞

10 ラジアルアンプハウス「空間に寄与する工芸的架構」
21 Iさんの避難観測所―危機への備えと遊びのための鋼製小規模人工土地―
入賞

03 Hair room TOARU 建物の活動要素や今昔の風景、素材構法、環境性能、モノコトを建築的に組替え、多層的に混成する
05 一本足の家
07 TAC.Tの輪
09 SHIMZ CYCLE UNIT(シミズ サイクル ユニット)
19 警固竹友寮〜立体的にまちと繋がる「通り土間」のある住まいを実現するハイブリッド木造~
28 木と鉄骨のレシプロカル格子梁と円環状縁梁による屋外回廊「わっか」

最終選考会(概要欄にタイムスタンプ有。機材トラブルのため、一部お見苦しい箇所がございます。)
https://youtu.be/4NZRmTRMwI8


第50回AFフォーラム「立ち上がれ愛に満ち溢れる構造設計者たち ー能登半島地震と木造住宅の甚大な被害ー」

日時:2024年02月29日(木) 18時~20時
コーディネータ:コーディネータ:和田 章
パネリスト:高橋治(東京理科大学教授)、北茂紀(北茂紀建築構造事務所)、布野修司(滋賀県立大学名誉教授)

お申込み(リンク先にて会場参加orZoom参加を選択してください。):https://ws.formzu.net/fgen/S72982294/

Youtube:https://youtu.be/scU_G888vmw
能登半島地震では築百年の立派な木造住宅も壊れた。建築技術は経験によって育つのであって、何百kmも離れたところで起きた地震被害の経験は、別の地域の住宅の技術改良になりにくい。地震被害を受けた地域の大工や棟梁も、大きな地震はもう来ないと考え、今までと同じ方法で次の住宅を作ってしまうこともありうる。
平地は田んぼや畑に使われ、山裾に家を建てることは日本のどこにも見られ、崖崩れの被害に遭いやすい。これも簡単に変えることはできず、誰も止めようとしない。
木造住宅はその基礎地盤が動かないことを前提に、柱ごとの独立基礎またはこれらを繋いだ格子状の布基礎の上に建っている。能登半島の海岸近くの砂地盤は至る所で液状化を起こした。骨組が弱いだけでなく、基礎が乱れた動きを起こすと、その上の骨組は脆く壊れてしまう。
まちや村そして家々は普通の工業製品に比べて圧倒的に寿命が長い。大地震は滅多に来ないから壊れない。昭和に建築基準法が制定され、その後、平成・令和になって建築基準法は改正され、学会規準が作られているが、適用されていない住宅が多く残ってしまう。原子力発電所や石油プラントを除くと、建築構造に関する法律は過去には遡らないことになっている。
昨日まできちんと建っていた住宅は、明日も同じように建ち続けるとほとんどの人が考える。耐震性が十分でない建築の補強は所有者の決断の問題であり、法律で強制することはできない。個人が耐震診断は行ったとしても、具体的な耐震改修はその動機も含めて実行するのは容易ではない。
多くの研究者、構造設計者は、木造住宅の耐震性向上の研究を進め、耐震補強や耐震改修の技術開発も行っている。日本人の住み方に関する研究も行われている。基礎に注目すると、最近の住宅では住宅全体を支える基礎マットが用いられるようになっているが、古い住宅の基礎はバラバラに動きやすい。骨組の補強だけでなく基礎部分の平面的な一体性を高めることも必要だと思う。
これらの考えや対策が日本の津々浦々に広がらないのは、法律改正や学会規準の問題ではなく、研究者・設計者などの専門家の説明や覚悟に説得力がないからだと思う。
立ち上がれ愛に満ち溢れる構造設計者たち

防災学術連携体:令和6年能登半島地震に関する情報

防災学術連携体の62学協会、関係機関の情報を集めた特設ページです
令和6年能登半島地震・1ヶ月報告会を開催しました
2024年1月31日(水)13:00~17:45
プログラム詳細
https://youtu.be/eTFKgYC-2S8

神田 順 2023年12月13日 建築基本法制定準備会シンポジウム【「建築基本法」制定で見えてくる新しい建築の風景】を開催しました。
https://youtu.be/IsvUwQNMCHc

まちの中の建築スケッチ 「大倉山記念館ー丘の上の集会施設」/住まいマガジンびお

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